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  • 中村智彦の日本一訪ねたい工場2012年6月号

    「好きなものをつくる」姿勢で技術を磨き、顧客を惹きつける(株式会社ミナロ・社長 緑川賢司氏)

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楽しみながら技術力を高め市場を開拓していく

先述したように、同社内にはユニークな製品がところ狭しと並んでいる。人気アニメキャラクターをデザインしたマンホールの蓋の木型まであった。

「こうしたマンホールの蓋があれば面白いだろうと思ったので、実際に作成し、アニメの舞台になっている自治体に売り込んだんです。地元の人たちは喜んでくださったのですが、盗まれたら大変なことになると、自治体の担当者からNGだと言われてしまいました。でも、それでいいんです。“好きなものを作ろう”というのが私の考え方だからです。僭越(せんえつ)ながら、お客様から発注されたものはあくまで仕事です。好きなものを手がけるからこそ、私も従業員もモチベーションが上がるし、新しい技術を習得するチャンスにもなるんです」

事務所内にある人気アニメの主役が乗り込む兵器は、端材を集めながら2年ほどかけて製作。あくまで従業員の技術習得の一環だという。

「お客様はやはり企業が中心、BtoBです。たとえば、船舶の流体実験を行なうための模型を製作しており、数メートルの大きさになることもあります。最初の引き合いはサイトからでした。その後、そのお客様が実験で使用している現場を実際にご覧になったという、別の造船会社からも同様の注文を受けました。大手自動車メーカーから実物大の自動車模型を発注されたこともありますよ」

中国でも木型製造を手がける企業が多数あるというが、実はコストが高いのだそうだ。必要以上に手間をかけたり、高額の材料を使うからだ。

緑川社長は自社技術について特別なものではないという。しかし、リーズナブルなコストでスピーディーに顧客のニーズに応えるために蓄えてきたノウハウは、一朝一夕に身につけられるものではない。

言うまでもなく、ものづくりは量産だけでは成り立たない。試作はもちろん、細分化された市場の中で、少量だが短納期で高精度のものを求める顧客は根強く存在する。そうした市場で支持を得るには、いかに社長以下、従業員全員が楽しみながら切り込んでいけるかであり、そのことをサイトなどを通じてどれだけ伝えられるかが重要なのではないだろうか。新しい町工場のあり方の典型となる1つを、ミナロは示してくれている。


【中村の眼】
緑川社長は、中小企業トップの集まりに積極的に参加し、自身もイベントを運営している。同様の志をもつ経営者仲間と始めた「全日本製造業コマ大戦」である。ことし2月に横浜で開催された第1回大会には、全国の中小製造業から、それぞれの技術を駆使したコマを制作した21チームが参加した。
不思議なことに、1つとして類似するデザインや仕様のものはなかったという。日本の中小企業の製造現場に様々な知恵や技術が詰まっている証のようにも思える。「コマ」という、シンプルであるがゆえに奥深いものづくりを通じて、業種や業界を越えて交流できる。こうした緑川社長たちの取り組みは、新しい市場を生み出す可能性もあるだろう。
「コマ大戦を、自社の技術を国内外にアピールするきっかけにしたい。海外の企業にも参加してもらえるイベントにしていきたいと思っています。第2 回大会に向けて、地方ブロック大会を開催する準備を進めており、地方大会を主催してくれる企業を募っています」
「ひょうたんからコマ」という諺がある。「駒」と「独楽」で字は異なるが、「全日本製造業コマ大戦」が盛り上がっていくことで、日本のものづくりの力強い広報部隊となり、驚きの成果が出ることを期待している。もちろん事業においては結果を出さなくてはならないが、その前提として、ものづくりは楽しんでこそ成果が上がることを、緑川社長は事業とイベントの両方を通して証明していくに違いない。



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(株)名南経営コンサルティング
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