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  • この人に訊く!2013年7月号

    「真冬でも行列のできるかき氷屋」はこうして生まれました(かき氷屋「埜庵」・店主 石附浩太郎氏)

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お客様に見送りの挨拶をすることでわかること

もちろん飲食店である限り、おいしくなければダメです。天然氷を使い、自家製のシロップや氷の削り方など、自分なりにいろいろと工夫してきました。ただ、いくらおいしいかき氷をつくっても、普通、冬には食べに来ていただけないわけです。おいしいことは前提ですが、おいしいだけではダメで、そのおいしさや私たちの思いをお客様に理解していただく必要があります。

飲食店経営の課題としてよく挙げられるのは、いかに集客するかということですが、私は集客そのものを考える前に、来店してくださるお客様を愛(いと)しいと思えるかどうかが大切だと思います。自分の店を大事にしてくれるお客様を、まず大事にするということですね。

---お客様を大事にするとは、具体的にはどういうことでしょうか。

ck_1307_3私の場合、意識してやってきたことは、お客様がお帰りになるときにお見送りし「ありがとうございました」と声をかけることです。もちろん、手が離せないときもあるので100%とはいきませんが、そうすることによって感謝の気持ちをお伝えするとともに、満足されたかどうかを表情から読み取ることができます。心からの笑顔であれば、おそらく楽しい時間を過ごし、かき氷もおいしかったのだろうと思いますし、そうでない場合にはどこが悪かったのか、反省しますね。

埜庵独自の味を出すために、たとえば本物のイチゴやメロンの果肉からシロップをつくるなど新しい試みでお客様にその魅力を伝えてきましたが、オフシーズンになっても来店していただけるようになったのは、それぞれのお客様の反応を見て、細かな改善や工夫を重ねてきたからだと思います。お客様を大事にすると同時に、お客様から学んでいるわけです。

---独立当初は鎌倉で2年間、屋台の店舗で営業され、その後、この鵠沼海岸に移転されました。ご商売のあり方も変えられたのでしょうか。

ck_1307_5ええ。1番大きな変化は、客層がまったく異なっていたことです。鎌倉はその土地柄から観光客や修学旅行の学生など一見(いちげん)さんが多い。遊びに来ている人がほとんどですから財布のひももゆるく、夏場にはすぐに10人、20人の行列ができたりします。これに比べて鵠沼海岸は、サーフィンのメッカとはいえ基本的に住宅地ですから、地元のお客様が多く、店の前を歩く人の数ははるかに少ないわけです。お客様の反応を見るよう心がけていると言いましたが、それを強く意識するようになったのは鵠沼に移ってからですね。いま思えば、それまでは客数や売上など、数字ばかり追いかけていたような気がします。

ただ、当初から2年間限定でと決めて開いた鎌倉のお店は、昨日のお客様と今日のお客様は基本的にすべて入れ替わるため、新しいことにチャレンジしやすいというメリットがありました。実際、新メニューや値付けを含めた売り方をいろいろ試すことができました。

そうするなかで、おいしいだけではダメだということも身をもって理解できましたし、商売の感覚も身につけることができました。たとえば、あるメニューのPOPを新しいものに変えただけで、突然、売上が伸びることもあるんです。なにか要素を変えてみると、結果も異なってくるんですね。

また、当時、埜庵のかき氷は600円でお出ししたのですが、実は、これはグループで来ている修学旅行生が六人まではきっちり割り勘できる価格なんです。そこまで考えて決めたのですが、原価を基準にするだけではなく、こうしたシチュエーションによって値付けすることも必要だと思いました。いろいろ試行錯誤をしましたが、鎌倉での経験がなかったら、鵠沼の店もうまくいかなかったと思います。



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