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  • ビジネスの視点2014年5月号

    自らを成功に導く発想・姿勢・習慣をつかめ! 運を呼ぶ経営(千房株式会社・社長 中井政嗣氏/株式会社エンジニア・社長 髙崎充弘氏)

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『ネジザウルス』の意外な恩人

bv_1405_2髙崎 実は、最近、社員にも笑顔を心がけるように言っているんです。松下幸之助さんが、昔、社員を採用するとき「あんたは、運がええと思うか」と尋ねたというエピソードがありますね。そうして運のよさそうな人だけを採用できればよいのでしょうが、私どものような小さい会社では、そうも言っていられません。ならば、採用してから運をよくしてあげればよいと思って、とにかく笑顔を心がけるように言っているんです。

中井 実際、何か変わってきたように感じますか。

髙崎 たとえば、社内で集合写真を撮影するとき、いつも暗い表情の社員がいたんですね。心配ごとでもあるのかと思って尋ねてみたら、お母さんがご病気だったりして、悩んでいる。「笑顔になったら、きっとええことが起きる」と言い続けました。すると、最初はぎこちない笑顔だったのですが、そのうち仕事中にも明るい表情が見られるようになって、それとはまったく関係がないのかもしれませんが、お母さんの体調も、ずいぶん回復されたと聞きました。家に帰ってからも明るく振る舞おうと、がんばってくれたのではないかと思うんです。

中井 それはよかったなあ。きっと、髙崎さんの想像なさる通りでしょう。

髙崎 千房さんでは、5年前から元受刑者の採用を始めていらっしゃいますね。そうした方に対して、何か特別な指導をなさるのでしょうか。

中井 いいえ、特別扱いはいっさいしません。ただ、私も松下さんと一緒で、面接のときに尋ねてみるんです。「きみ、運がええと思うか、悪いと思うか、どっち?」と。全員が例外なく「運が悪い」と答えます。

髙崎 少年刑務所に入っていたわけですから、そう思うのも無理はないのかもしれませんね。

中井 でも、よく考えてみてください。いま、全国の少年刑務所には20万人もの若者が収監(しゅうかん)されているんですね。そのうち、釈放後、すぐに就職できる若者がどれだけいるでしょうか。しかも、採用に名乗りを上げているのは、曲がりなりにも全国展開している会社で、おかげさまで大学を出た若者も入ってくれるようになりました。さらに、その創業者がわざわざ刑務所まで会いにきてくれているのに、それでもきみは運が悪いと言うのか、と(笑)。

髙崎 そこで気づくわけですね(笑)。

中井 そうなんです。すると、過去の自分も肯定できるようになります。散々な人生だと思ってきたけど、実はそういう道のりをたどってきたから、いまがあると思えてくる。「きみは、運がよいのですよ」と気づかせてあげるんです。そもそも、運がよいも悪いも思い込みです。「運が悪い」と思っていたら、経営なんてできないのではないでしょうか。髙崎さんも、そうでしょう?

bv_1405_3髙崎 ただ、私もいろんな失敗を経験しましたので、ツイていないのかなと思うことはありました。

中井 でも、それは単に失敗なさったのであって、運が悪いのとは違う。

髙崎 そうですね。八方ふさがりで、もうお手上げかと思っていると、ありがたいご縁に恵まれて、救いの手を差し伸べてくださる方が現われる。そういう経験は、何回か思い当たります。

中井 たとえば、どんなことがありました?

髙崎 私どもの看板商品になった『ネジザウルス』も、思わぬ僥倖(ぎょうこう)を経験しました。これは、頭の部分が潰れてしまったネジでも簡単に外すことができるプライヤーで、2002年の発売以来、おかげさまでシリーズ商品の累計販売数は200万本を超えました。

中井 それはすごいなあ。

髙崎 ところが、50万本近く売れたとき、勢いがぴたっと止まりました。工具業界では、年間1万個も売れればヒット商品とされます。さすがにそれ以上は売れないだろうという声ばかりでしたが、私はもっと売れると確信していました。日本の総世帯数を考えると、100倍は売れてもおかしくない。ところが、現実は厳しくて、諦(あきら)めざるを得ないかと観念しかけたのですが、ちょうどそういう時期にタレントの所ジョージさんが、ある雑誌で『ネジザウルス』を激賞してくださったんです。それがきっかけで、息を吹き返しました。その後、リニューアルした『ネジザウルスGT』を発売したことで、それまで以上の反響を頂戴するようになったというしだいなんです。

中井 所ジョージさんとは、何かご縁があったのですか。

髙崎 いいえ。まったく個人的にご購入いただいたようで、純粋に工具としての機能を褒(ほ)めてくださったようでした。そのご厚意に何とかして恩返しがしたいと思って、勝手ながら、その気持ちを新製品の名前に込めました。「GT」というのは、「George Tokoro」という意味なんです。



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(株)名南経営コンサルティング
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