-
闘うトップ2014年5月号
「おもろいタクシー」で人と街とを繋ぐ担い手になる(近畿タクシー株式会社・社長 森﨑清登氏)
ロンドンタクシーがエンジンをかけてくれた
制服もホテルマンのようなデザインにしたので、乗務してくれるドライバーがいるかが心配でしたが、幸い、ベテラン2人が面白がって手を挙げてくれた。お客様第1号はさる一流ホテルの社長でしたが、ドライバーが大喜びして戻ってきて「名刺をつくってほしい」と言ってきたのです。聞くと、その社長は「こんな車に乗るなんて君はエリートなんだね」と言って名刺をくれたそうで「そんなことを言われたのは初めてや。交換する名刺がほしい」と。
実際、この車に乗るとドライバーの背筋が伸びるんです。お客様からは丁寧な扱いを受けますし、カメラを向けられることも多い。だから最初、尻込みしていたドライバーにも交替で乗るよう、けしかけました。それによって、ドライバーの意識が変わってきて、言葉遣いは丁寧になり、神戸の観光地を勉強するようにもなった。職業に自信がもてるようになったんですね。
私自身も、「あのロンドンタクシーを導入したヤツ」ということで、人とたくさん出会えるようになりました。この世界で生きていけると確信できるようになった。ロンドンタクシーが私にエンジンをかけてくれたんです。新しいことをやるには、まず“かたち”から入ることも大切ということを実感しました。いまも1台、観光とブライダルで使っています。維持費がものすごくかかるので採算的には合いませんが、数字に表われない効果を発揮してくれています。
◇ ◇ ◇
だが、天職を悟ったのも束の間、95年には阪神大震災が起こる。社屋や自宅は高台に位置していたことから直接の被害は比較的少なかったが、神戸の市街地は壊滅状態となった。このときは病院船が神戸に来航、船に寝泊まりする医師や看護師を、各地に設けられた臨時診療所に送迎する仕事が入ってもちこたえることができた。