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  • 闘うトップ2014年5月号

    「おもろいタクシー」で人と街とを繋ぐ担い手になる(近畿タクシー株式会社・社長 森﨑清登氏)

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生まれ育った町が一面更地になった光景を見たときの気持ちはうまく表現できません。喪失感とか悲しみ、将来への不安が一緒くたになって押し寄せてきた。それらを乗り越えて、みんなと一緒にもう一度自分たちの町をつくり上げていくしかないと思いました。

それからは、いろいろな市民の集まりに顔を出すようになりました。そこで、タクシーで何かお手伝いできることはないかと名刺を配りまくった。復興イベント会場に乗り合いのマイクロバスを走らせたり、ドライバーから集めたリアルタイムの交通情報を地域のFM局に提供したりもしました。

そして、震災から5年経って、私が言い始めたのが「長田区を観光の町にしよう」ということでした。最初は「そんなこと言うても名所なんて何もない」という反応でしたけど、「よそにはない震災体験が長田区にはある。みんなでありものを持ち寄れば何とかなるんやないか」と商店街の会合などで言い続けたら、だんだんその気になってくれたんです。

長田区は全国の皆さんからのあたたかいご支援で復興してきました。だから各地からの視察団は来てもらえるだけでもありがたいと、こちらで資料を用意したり一所懸命ボランティアでご案内してきた。でも、5年目になるとそれを負担に感じる気持ちも出てきたんですね。それなら視察団を観光団にして長田区でお金を使ってもらうようにしたらどうかということです。そうでないと長続きしないと思いました。

               ◇ ◇ ◇

最初に誘致したのが中学・高校の修学旅行だった。震災の傷跡や復興を果たした先をタクシーで巡るとともに、震災体験者の話を聞く場をセッティングして好評を得た。観光には名物が必要だろうと、地元の食品会社に交渉し、地元の食べ物である牛すじとこんにゃくを甘辛く煮込んだ「ぼっかけ」を使ったご当地カレーを商品化したのも森﨑社長だ。いまでは「ぼっかけ」は長田名物として全国に知られるようになっている。

そして09年、観光の町・長田区のシンボルとして、JR新長田駅前に鉄人28号の巨大モニュメントが完成する。

               ◇ ◇ ◇

鉄人28号の作者の横山光輝さんは、小・中学校の先輩に当たります。私にはあの突き出した右腕がエイッ、エイッと2度突きしているように見えるんです。「これまで15年間みんなよう頑張った」が1度目のエイッ、「これからも頑張ろう」というのが2度目のエイッです。

02年の「お花見タクシー」から始まる観光タクシーの発想も、長田区の商店街の人たちとの話のなかから生まれたものでした。何も特別新しいことをやっているわけではない。地元では当たり前のように存在する場所やお店も、光の当て方次第で観光に使えるということです。「スイーツタクシー」は神戸のスイーツ店と提携していますが、当社はマージンをもらっているわけではない。ただ、予約して訪ねていったときにお客様の名前を入れたプレートや、特製の小さなプレゼントを用意してもらうようお願いしています。それだけでお客様に幸せな気分になってもらえるんです。



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(株)名南経営コンサルティング
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